目次
はじめに
セレア代表の石川将平でございます。
私は全国の公的機関の職員様や民間企業の従業員様に対して教育研修や現場改善コンサルテーションを年間を通して行っております。その立場で組織の教育について考えることは複数ありますが、その中でも階層別研修の継続的な実施についてはとても重要だと考えております。
教育は特定の階層に単発で行ったところで、その効果はほぼないと考えてほしいです。人間は忘れる生き物です。通常業務が走る中で、多くの知識や気付きを完全にモノにするためには継続的な取り組み、いわゆる教育のPDCAサイクルを回す必要があります。また、階層別研修の目的は組織学習を通して組織人員の業務の生産性を向上させ、組織目的の実現と組織人員の自己実現に繋げることです。そのために有効性のあるカリキュラムを構築する必要があり、知識を羅列させたようなカリキュラムでは話にならず、組織の理念に基づき、ストーリー性を入れ込んだカリキュラムが必要です。
これらの点について、その詳細をお話して参ります。
Ⅰ 階層別研修について
1.階層別研修とはそもそも何か
階層別研修とは、組織内にある階層(部長、課長、係長など)ごとに、組織規程内にある役割定義(階層別体系図:役割と必要なスキル)に従い、必要な能力要素を明確にし、その能力要素を習得、もしくは改善、強化することを直接的な狙いとして実施するものです。役割定義には、一般的な内容もあれば、組織ごとに大切にしている考えを入れ込んだ組織固有の内容と2つに分解できます。そのため、極端な言い方をしますと、組織ごとに研修実施前のヒアリングを通じて、その組織に適したカリキュラムを作成する必要があります。パッケージのような研修を実施されることはお勧め致しません。一方で、経営者様や人事担当者様からは「うちの組織には役割定義が体系図により明確化されてないけど?」というお声をたくさん頂きます。であれば、研修実施前に明確にしましょう。この辺りを踏まずに実施したところで、受講者からすると、『自分たちには組織から何が求められているのかいまいちはっきり理解できない』というモヤモヤを生じさせます。別の視点で見ると、役割定義を体系図により明確にするお手伝いを教育機関側は行うべきでしょう。もちろん費用面に反映する必要がありますので、業者と顧客とで調整が必要ですが、役割定義と能力要素の棚卸しは簡単な取り組みではございません。内製が難しいと考えられるようでしたら、ぜひ弊社はじめその他教育機関にご相談してみてほしいと考えます。
2.特定階層だけではなく全階層で行う理由
階層別研修において、一般階層の研修後のアンケートでよく出てくるご意見があります。
『この研修内容を課長職以上にも受講してほしい』というご意見です。
なぜこのような声が出てくるのでしょうか。
それは、組織の全人員に求められている『職場の仕事をしやすい空気感を醸成していく』という点について、実際の現場では行動レベルでリーダーシップが発揮されていないからです。これはリーダーを批判したくてお伝えしているわけではございません。リーダーの中には、階層別研修で当たり前のように学習する空気感の醸成方法について、ご存じない方がとても多くいらっしゃり、その点をアンケートで突かれているのです。
このことは逆のことも言えます。リーダー研修ではフォロワーシップの重要性を学習します。しかし、実際の現場ではフォロワーからフォロワーシップを発揮されてないことがあり、その点を悩まれるのです。
このように、特定の階層だけ教育をしたところで、お互いの考えや行動の意図が不明なままなので、行動が空振りしてしまうのです。リーダーシップを発揮したいのであればフォロワーシップも発揮していく、フォロワーシップを発揮したいのであればリーダーシップも発揮していく。このような双方向でのアプローチがあって組織力が強化されていきます。そのため、全階層で取り組む階層別研修の実施が不可欠だということです。
Ⅱ 有効性のある階層別研修とは
階層別研修の内容としては、どのようなものが良いのでしょうか。
次の点をカバーしている必要があります。
1.実践的研修であること
理論ばかりの研修では現場では使えません。インプットした知識をアウトプットする機会が必要です。そのため、研修内ではインプットとアウトプットを繰り返し行う必要があります。そして、短時間で確実にインプットできるように、端的に理解できるような講師からの伝え方やテキストの見せ方などが必要です。また、アウトプットについては同じテーマで内容を若干カスタムして3回ほど繰り返し行い、これをテーマごとに取り組みます。そのため、半日で終了する研修の効果は範囲をかなり限定して実施しないと、相当低くなるリスクがあることを知っておいてください。
2.組織が考える階層ごとの役割定義を果たすための研修であること
この点はすでにお伝えしたように、組織として何を階層ごとに求めるのか明確にし、それらを果たすための気付きの場として研修が存在するようにしていきます。
役割定義(体系図)を作ってみたが一般的な内容になったとしても、作り込みをした結果としてなのか、鼻から一般論を設定したのかでは雲泥の差です。組織としての言葉で表現することが大事です。
3.受講者に問題意識を持たせたうえで研修へ参加させること
この点はとくに強調しておきたいです。
多くの組織で、研修がイベント化しています。
- 「1年に1回ある〇〇研修の時期が来たから受講させられるんだよ」
- 「上司からの指示命令で受講させられるんだよ」
- 「今度昇進するので研修受講が必要なんだよ」
このような考えで受講するのであれば時間のムダでしょう。
実際に、こうした積極的、能動的姿勢が見られない研修受講者が圧倒的に多いのが事実です。講師として残念でなりません。
ただ、嘆いていても前に進めません。教育を提供する側として、受講者の意識改革を行うことは、責任の一つです。あとは方法論の問題です。断っておきますが、何をどのようにアプローチしても意識を少しも変えることができないような人員もいます。そのため、すべての受講者に責任意識を一定レベルで持たせるという考え方は少し傲慢です。そのような人員にとっては、いまは受講するタイミングではないかもしれませんし、本人が何らかの理由で拒否しているかもしれません。無理からに振り向かせようとしても、お互い疲弊します。そこは見極めが必要です。
では、どうすれば良いか
では具体的にどのようにして問題意識を持って頂くかです。ここで知りたいことは、受講者の悩み、ではなく、何を体験したのかという点です。悩みは人の捉え方です。研修で問題解決を図る際には、まず事実情報が知りたいのです。それをどう捉えたのかは次の展開です。そのため、事実情報→それをどう捉えたのか→その事実の発生原因は何か→原因を払拭する課題は何かと掘り下げます。原因の捉え方が間違っている可能性、事実の捉え方に認知の歪みがある可能性、課題変換が誤っている可能性、様々です。そこを研修内で特定し、正しい対処をしていくきっかけにしていきます。これらの話を展開する上で、もっとも大事な要素が事実情報というわけです。これが分かっていないと掘り下げようがないからです。事実情報をマストにして、問題視しているケースを研修実施の事前に、もしくは、研修当日に明確にして頂くのです。
このように、上記3点は有効性のある階層別研修を実施する上で、最低限必要な要素となります。外部委託される際には、少なくともこれらのことを理解している教育機関に研修依頼されることをお勧め致します。
Ⅲ 効果測定の実施は必須
研修しただけでは、何もしないのと同じです。
子供を学習塾に1度だけ行かせて何か変わるでしょうか。確実な変化は望めないでしょう。
研修終了後に、受講者は研修内での気付きを現場で実践していきます。ただし、その実践量や質感は低いでしょう。いきなり研修で学んだことをすべて発揮できる人員はいないでしょう。最初は小さなことから始めていきます。それが大きな渦になっていくためには、何度も壁を乗り越えていく必要があります。その壁を乗り越えていく手助けとなるのが効果測定です。理解度が一定レベルまで上がり切れていない箇所が必ず受講者にはあります。それを効果測定で特定し、補強します。その結果、壁を乗り越える上で必要な知識が増え、知恵に変換することで大きく壁を飛び越えていきます。
効果測定の方法はいくつかありますが、研修で使用したテキストや講師の話、付帯シート類から満遍なく抜き出し、ペーパーテストを実施していく方法がシンプルでしょう。その他にも360度評価や面談、チームで議論して頂くなどの方法はありますが、外部委託されないのであれば、どれも内製では厳しいでしょう。
効果測定は研修効果の最大化を図るためには必須ですね。
Ⅳ 階層別研修は同階層に毎年最低1回は行う
基本的な研修と効果測定を実施するだけでも、それをしないのとでは全く違いますが、人員の成長を組織的に確実に実現していきたいのであれば、教育は一定期間ごとに、同階層同テーマで繰り返しレベルを上げて実施していくことをお勧め致します。例えば〇〇基礎研修と〇〇実践研修のように、基礎レベルが終了すれば、一定期間経過後に、実践レベルの研修を実施していきます。基礎知識があり、現場でPDCAを回している前提があれば、今度はそれらで得た要素を使って現場で実際に発生している問題を取り上げ、解決に向けたアプローチを実践研修で行っていくのです。この段階を経て、これまでインプットした知識は知恵という形に昇華されます。ここまで組織には教育のPDCAを回してほしいです。1度受けたら同テーマの研修はもう終わり、というパターンが多いことは、そもそも組織本体が教育を本気で行う気がないのだということを露呈させていると感じます。学校じゃないのだから教育機会を1度上げているのだから、あとは本人たちの努力である、という主張も一理あると思います。ただ、それで組織力が強化された事例を私はあまり見たこと、聞いたことがありません。現代の多くのビジネスマンの思考力が磨かれておらず、視野は狭く、問題解決能力が不足しているから目の前の問題に立ち向かわない、立ち向かえない。防衛本能から権利主張を強く行う。教育のPDCAを回さなかった結果が今だと思います。誰しも不完全です。完全なものも研鑽を怠れば不完全になり得ます。仕事も教育もPDCAサイクルを回すことがもっとも大事です。
まとめ
階層別研修というテーマは、いまの弱体化した日本組織において、そこから脱却する手段になり得ると私は考えます。先人たちが築き上げてきた理論、方法論を知り、現代にあうようにカスタムして、組織力強化に繋げていきます。
教育予算を大きく割けない組織の事情も分かります。ただ、これは組織規模や考え方によって異なる部分ですが、企業は人なりと松下幸之助は言われ、それは本質だろうと感じる一方で、多くの組織の教育予算が低いと感じます。どのくらい上げればというのも答えのない話ですが、同じ研修テーマ(レベルや内容は当然変えます)を3回は定期で受講させるくらいの予算は必要だと考えます。そして、国からの教育支援ももっと必要です。就業支援という切り口に助成することはもちろん大事ですが、組織力強化という観点でも助成が必要でしょう。
いまこそ、有効性をもたせたカリキュラムで構成される階層別研修を実施し、以後、教育のPDCAを回していってほしいとすべての組織に切に願います。